7. フリーエンジニアで案件が決まったら、稼働までに進めておく3つの事務作業(契約・経理)

案件が決まり稼働までの間は、時間に余裕がある時期です。その間に、フリーランスならではの事務作業を進めておきましょう。特に重要な契約書・見積書・請求書のポイントについてご紹介します。

契約書を確認する

案件が決まると、稼働までに発注元と契約を結ぶことになります。常駐型のエンジニアの場合は、基本的に“業務委託契約”の形をとります。
実はこの業務委託契約には、「準委任契約」と、「請負契約」の2つがあり、同じ業務委託契約と言えど、契約の内容は全く異なります。

この2つの違いを理解し、契約締結時には、自分の案件がどちらにあたるのかを必ず確認し、不利な契約とならないように注意が必要です。
最低限、知っておくべきポイントをご紹介します。

準委任契約と請負契約

準委任契約と請負契約の違いは、“成果物の完成を約束しているか、そうでないか”に分かれます。成果物の完成をもって報酬が支払われる契約を「請負契約」、成果物の完成に向けて稼働することを約束し、稼働工数に対して報酬が支払われる契約を「準委任契約」と言います。

準委任契約と請負契約

請負契約

作業すること自体ではなく、成果物に対して報酬が払われるという契約です。
WEBサイトやアプリなどを構築し、完成したものを納品するような例が請負契約にあたります。
請負契約で問題になることが多いのが、完成物の定義と納期です。
どの状態でいつまでにどこに納品をするのか、齟齬がないようすり合わせの上、契約書を確認します。無理な納期が設定されているなど、自分に不利な条件になっていないか、よくよく確認が必要です。

開発関連の請負契約の場合に注意したいのが、再委託の可否です。
再委託とは、自分が受けた仕事を、他の誰かに委託するということです。再委託不可という場合も多いのですが、WEBなどの仕事は、デザインはデザイナーにお願いしたりといったように、自分が受けた仕事の一部を、別の人に再委託することはよく発生するケースです。
事前に再委託が必要となることが分かっている場合には、必ずそのような内容の契約に変更してもらうようにしましょう。
請負契約では、仕事に対する完成義務を負うため、成果物に瑕疵があった場合、瑕疵担保責任を問われることになるという点も注意すべきポイント。瑕疵担保の期間や、瑕疵があった場合の対応方法も契約書に記載されるので、不利な内容になっていないか確認しましょう。もし瑕疵に関する記載がない場合は、記載するよう修正を依頼します。

準委任契約

準委任契約は、仕事における“一部の作業”を行うために稼働することを約束する契約です。発注元から依頼された作業内容をこなすことで報酬を得る形となり、エミリーエンジニアをはじめエージェントから紹介される案件の多くはこの形になります。
システム開発を進めるにあたり、その開発が完了するまでには複数の工程がありますが、その工程の中の「決められた作業を行う」という形で契約を結ぶのです。
そのため、準委任契約の場合には、その作業範囲や稼働時間、稼働場所などを必ずすり合わせの上、必ず契約書に記載するようにします。

常駐型のエンジニアの場合には、特に作業範囲はきちんと取り決めておくことが大切です。
常駐してるがゆえに、社員と同じようにあれもこれもと業務が増えていってしまうことのないようにしましょう。

また準委任契約で勘違いしやすいのが、発注者の指揮命令権です。
常駐していると、発注側(常駐先の企業)の指揮命令に従って業務を進めると思っている方も多いのですが、準委任契約の場合は発注者に指揮命令権はありません
契約上細かい作業指示などを受ける義務はありませんが、契約書で責任者の記載や連絡方法などが定められる場合もあります。業務を進めるにあたり必要となりますので、必ず確認するようにしましょう。

また、請負契約と異なり、仕事の完成義務は無いため、瑕疵担保責任を負うことはありませんが、善管注意義務というものがあります。
善管注意とは、期待されている注意義務を差しますが、それを怠ると損害賠償請求の対象になることもあるので注意が必要です。
善管注意義務違反についても、その罰則が契約書に記載されていますので必ず確認しておきましょう。

参考
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/keiyaku/model_keiyakusyo.pdf
経済産業省商務情報政策局情報処理振興課「情報システムの信頼性向上のための取引慣行・契約に関する研究会」~情報システム・モデル取引・契約書~(受託開発(一部企画を含む)、保守運用)〈第一版〉」

準委任契約の精算について

また準委任契約の場合に、もう一つ注意すべきが精算です。精算とは、あらかじめ契約で定めた稼動時間に、実際の稼働時間が満たなかった場合や超えた場合に、報酬額を調整することです。

例えば、週に5日間フルタイムで100万円の報酬とする常駐案件があったとします。
よくあるパターンとしては、160時間(20日*8時間)を月間基準時間として、プラスマイナス20時間、つまり140~180時間の稼働時間を精算幅とし、実際の稼働時間がこの範囲に収まる場合は決まった月額である100万円を請求・支払いしましょうというものです。ただし、実稼動がこの幅の外にある120時間だったり、190時間だったりした際には、その分を精算します。
その精算の幅と精算方法も契約書に定めて確認しておく必要があります。

実際のパターンも様々です。
160時間を基準とした140~180時間が一般的な精算幅ですが、その幅が140~200時間の場合や、固定(つまり精算なし)の場合もあります。上限が180時間を超えるような場合や固定の場合は、実際の現場で今働いている方々がどれくらいの残業時間があるか、などを念のため確認したほうが良いでしょう。
上限や固定の案件が必ずしも悪いわけではなく、その発注元の契約時のルール・慣習としてそうしている場合もあり、実際には毎月180時間に収まっているようなケースも多くあります。

また、精算の基準金額の計算方法は大きく2種類があります。一つは中間割りと呼ばれる方法で、上記の例ですと100万円を160時間の基準時間で割って、1時間当たりの報酬である6,250円を算出します。それを基準に20時間足りない場合や10時間超過した場合に、精算を行います。

もう一つの精算の方法は上下割りと呼ばれる方法で、システム開発の会社などで比較的多くみられます。上記の例にあるように140~180時間の精算幅だった場合、140時間未満については100万円を下限の140時間で割った値(およそ7,143円)で精算して100万円から控除します。逆に180時間を超える場合については、100万円を上限の180で割った値(およそ5,555円)で精算して100万円に加算します。

つまり前述の例のように実稼動が20時間足りない120時間だった場合は、(120-140)時間*7,143円を掛けた142,860円を100万円から控除します。逆に10時間多い190時間の実稼働時間だった場合は、(190-180)時間*5,555円を掛けた5,5550円を加算します。

契約内容参考例
当月の勤務時間200時間の場合
当月の勤務時間120時間の場合

見積書の準備・提出

契約が終わり稼働する際に、見積書の提出を求められる場合もあります。
毎月報酬に変動がなく、契約書に記載の通りであれば不要なことも多いですが、企業により異なるので必ず確認しましょう。
見積書に記載する際の注意ポイントは下記の通りです。

発行日と有効期限

見積書を発行した日付と有効期限は必ず記載しましょう。
報酬単価が変動することもありますので、いつ時点でのいつまで有効な見積もりなのかを明確にしておくことで、無駄なトラブルを防ぐことができます。

項目

どのような内容に対しての見積もりなのか、できる限り詳しく記載したほうがよいです。
開発1式〇〇円といった記載では、開発のどこまでの範囲を〇〇円でできるのか不明なため、認識が違っていた場合などにトラブルになりかねません。
認識のすり合わせのため、また自分の業務範囲を明確にするためにも、●●プロジェクトの要件定義・開発・テストを▲時間×単価△円=〇〇円というように、できる限り詳しく記載しておく方がよいです。

消費税

多くの場合は税別ですが、必ず確認の上、記入をしましょう。
個人事業主自身が、消費税課税業者でなくても請求することは可能です。

備考欄

見積書の項目に反映できない内容などを記載します。
常駐型の稼働の場合は、例えば、契約時間を超えた場合は超過時間×単価で請求する旨や、交通費などの実費精算が発生する場合にはその旨を記載したり、業務内容には●●が含まれますといったような項目に関する内容など、細かい点ですが重要です。
備考欄を活用して記載しておきましょう。

見積書はExcelのテンプレートなどで対応することも可能ですが、会計ソフトを活用すると便利です。請求書を作成する際に見積もりの内容を反映できたりといった機能もあるため、ミスの防止にもなります。

請求書の準備・提出

常駐型の仕事であれば、多くの場合は毎月月末に請求書を提出することになります。
月末に慌てなくてよいよう、見積書発行時に、まとめて準備を進めておきましょう。
こちらも、Excelなどでも可能ですが、会計ソフトを活用すると毎月の経理処理と連動することができ工数削減になります。発行時に注意したいポイントがいくつかありますのでご紹介します。

記入すべき内容

国税庁のホームページでは、書類作成者の氏名・取引年月日・取引内容・取引金額(税込)・書類交付を受ける事業者の氏名を記載するようにと明記されています。

参考;国税庁/No.6625 請求書等の記載事項や発行のしかた
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6625.htm

取引年月日は完了のタイミング

経理処理上、売り上げは仕事が完了したタイミングで計上することになっています。
請負契約であれば、納品物の検品が完了したタイミングなどがそれにあたります。
常駐型のエンジニアの場合は、契約期間中、月単位での稼働を約束する形式が多いため月末締めとなります。
何月分の稼働に対してのいつの請求なのかがわかるよう記載しましょう。

金額

金額は請求する金額を取引内容別に記載します。
常駐型の稼働の場合は、取引内容は1つかもしれません。
もし交通費支給などがある場合には、取引内容に交通費として記載します。

支払日

支払日は、契約で記載されていることが多いです。
請求書発行時には、契約書の支払いサイトに沿った支払日を記入しましょう。

振込手数料

振込手数料がどちらの負担になるのか、事前に確認の上記載します。
多くの場合は、発注元負担のため、「振込手数料は、貴社にてご負担をお願いいたします」などという形で備考欄に記載します。

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印鑑について

契約書も、見積書も請求書も捺印が必要です。
個人事業主の場合は個人名の印鑑でよいので、特別な事業用のものを準備する必要はありません。
しかし、屋号で捺印をしたい場合や、事業用として使い分けをしたい場合には、事前に印鑑を作っておくとよいでしょう。
法人のように実印の登録はありませんので、対外的に捺印する際に、事業用に使用するものが欲しいかどうかで決めておきましょう。

まとめ

今回は、代表的な3つの事務作業についてポイントをご紹介いたしました。
個人事業主になると、契約や経理も基本的には全て自分でこなさなければなりません。
時間に余裕ができたタイミングで準備を進めておきましょう。
フリーランスとしてキャリアを積んでいくと、これらに加えてスキルシートのアップデートも空き時間に進めておきたいところです。

契約書や経理書面、またスキルシートで悩んだら、エージェントに相談してみるのもよいでしょう。ひな型を準備してもらえたり、作成をサポートしてもらえる場合もあります。
気軽に担当者に問い合わせてみてください。

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